2014年3月11日にクライン委員長が,フォーリン・プレスセンターにて講演を行いました。

2014年3月11日

福島事故後のエネルギー確保について

2014年3月11日
デール・クライン

皆さん、おはようございます。本日はお越しいただき、どうもありがとうございます。ご存知のとおり、私は、ここ数年間、日本でかなりの時間を過ごしてきましたので、日本のことや日本の皆さんのことをとても身近に感じています。原子力改革監視委員会の委員長として、東京電力の幹部やその他の多くの方々と緊密に仕事ができたのは、とても幸運なことでした。以前アメリカ政府と一緒に働いていたときも、日本の関係者の方々と有益な関係を築いてきました。


ここで受けた温かいおもてなしや、これまで築いてきた個人的な関係もさることながら、地震と津波による被害や福島第一原子力発電所事故がもたらした困難に立ち向かい、それを克服しようとする日本の皆さんの決意に感銘を受けました。


東京電力では、経営陣のトップから各作業員に至るまでが、単に復興するだけでなく、より良い安全な未来を作ろうとする意気込みを抱いていることに感激しました。


福島第一原子力発電所の事故からすでに3年が経過した現在、これまでを振り返ることもできますが、私が特に注目したいのは未来であり、その未来を実現しようと決意している人たちです。彼らはこれからも多くの問題に直面するでしょう。そして、最近の経験でも示されたように「改善は続けていかなければならない」のです。しかし、私は未来を楽観的に考えています。その理由として、私が実際に見た東京電力内での変化が挙げられますが、さらに大きな理由は、日本の人々が原子力発電は日本の未来の一部として残し続けなければならないという認識を高めていることです。


日本が原子力発電に頼らずに乗り切ろうとしても、それは現在の日本ではありません。そして、間違いなく、私たち全てが目にしたいと願っている繁栄する、成長する、環境責任を負う日本でもありません。


私たちは日本の成功を目にしたいと願っているのです。アメリカで行った数多くのディスカッションや、原子力改革監視委員会のバーバラ・ジャッジ副委員長など同僚たちと行ったディスカッションから、世界は日本に注目していると断言できます。


そして、世界は皆さんの成功を願っています。なぜなら人々は、気候変動をうまく管理し、化石燃料への依存度を下げるためには、原子力発電がエネルギー・ミックスの重要な一端を担うことを理解しているからです。しかし同時に彼らは、原子力発電に対する人々の信頼は、東京電力で何が起きるかによって左右されることも知っています。


福島の進捗


福島第一原子力発電所は、過去3年の間に多くの面で大きな進歩を遂げました。


原子炉冷却対策は、より安全で堅牢なシステムに変わりました。4号機の使用済み燃料プールの燃料取り出しは、東京電力と協力企業による革新的な設計と綿密な実行力によって可能になりました。


さらに重要な問題への取り組みでも進捗が見られます。それは、1号機、2号機、3号機から、溶融した燃料を取り出すことです。また、地下水に関する長期的な問題でも、まだ十分とは言えませんが進歩が見られています。私は、汚染水問題を管理する技術的な能力や、現在はタンクに貯蔵されている処理水の長期的な処分計画がないことに懸念を抱いています。我々が直面している多くの問題の中でも、この問題はおそらく解決は最も簡単なものの、人々の不安をかきたてる問題だと言えるでしょう。


汚染水管理や毎日変動する漏えい量に焦点があてられると、最大の課題への取り組みから注意や資源がそれがちです。それは、溶融した燃料と使用済み燃料をどのようにして冷やし続けるか、また、損傷した格納容器から溶融した燃料を安全に取り出すにはどうすればいいかということです。大半の方はご存知かと思いますが、福島第一原子力発電所にある種類の溶融燃料の取り出しは、過去に一度も行われたことがありません。スリーマイル島でも燃料が溶融しましたが、格納容器は破損していませんでした。


チェルノブイリでは黒鉛炉の格納容器がなく、ソ連はその周りにコンクリートの石棺を作って見捨ててしまいました。


日本が福島を見捨てることはないでしょう。私がこれまで見てきた皆さんの価値観と環境保護への思い、そしてこの問題に取り組む皆さんの決意が、それを示しています。成功への道には、多くの小さな学習の結果、そして協力して粘り強く取り組む人たちによって導かれます。私たちは今、こうして少しずつ増えていく学習の蓄積を目にしています。


ロボットカメラやその他のハイテク技術を駆使したり、また、国際的なパートナーを得たりして、東京電力は燃料の状態と位置、格納容器の状態についてより多くのことを学ぼうとしており、それが燃料取り出しの開発へとつながる可能性もあります。東京電力は新・総合特別事業計画の中で、2020年代前半までに少なくとも3つの原子炉のうちひとつから燃料を取り出すことを目標に掲げています。これは6年先のことですが、このような問題に直面したことがあるのは一人もいないという事実に照らせば、野心的な目標だと言えるでしょう。


ですから、福島第一原子力発電所で起きている進歩は、たとえそれが小さな一歩だとしても、大変重要な一歩なのです。


私は、東京電力が、福島第一原子力発電所における除染と廃炉(D&D作業)を専門に担う組織を作るという決定を下したことに勇気づけられました。廣瀬社長も述べられているように、これによって福島第一原子力発電所はより大きな注目を集め、より大きな実行責任を負うことになります。また、高い技術を持ち、成否を左右するほどのかかわりを持っている日立や東芝などの一流企業も協力してくれるでしょう。


これは、東京電力がD&D作業のための能力、技術、組織構造は、必ずしも電力会社を運営するために必要なものと同じではないことを認識していることの現れだと思います。 D&Dチームが遭遇することの多くは、誰も経験したことがなく、そのため、幅広い技術力、診断スキル、批判的思考が必要になります。重要なのは、東京電力がこうした能力を有する人材を新しい組織に配置することです。そして、しかるべき人材を日本で見つけられない場合には、物事を正しくかつ安全に実行するために必要な人材を世界中で探すべきです。


安全文化


もちろん、福島におけるクリーンアップ作業がいかに優れていようとも、それだけでは原子力の未来、日本のエネルギーと経済の未来を回復させることはできません。福島第一原子力発電所における安全への継続的な取り組みは、一般市民からの信頼を取り戻すために不可欠ですが、それだけでは日本の残り50基ほどの原子力発電所を再稼働することはできません(そして同時に、原子力発電所の代わりに旧式の化石燃料プラントをスタンバイさせて復帰させることもできないでしょう)。


このためには、柏崎刈羽原子力発電所等の原子力施設を、非常に高い安全裕度で運転できるようにする必要があります。


私は、実際に柏崎刈羽原子力発電所を訪れ、安全向上活動をつぶさに視察してきましたが、とても印象的でした。事故の際に、使用済み燃料プールと炉心の冷却水を確保するために、大きな冗長性、停電時のより堅牢な能力、より可搬的な緊急時設備などの方策がとられています。


電源が喪失した場合に備えて、山の湖から重力で供給できる冷却水もあります。こうした安全性の向上は、私たちが「深層防護」と呼ぶものに相当します。


しかし、最も重要な変化はこうした物理的な向上だけではありません。それは、人々の取り組む姿勢と行動面での変化で、それをひとつにしたのが「安全文化」です。そして、原子力改革監視委員会が最も注目したのは、東京電力におけるこの安全文化の創出です。原子力改革監視委員会の日本人メンバーは、改善のための提言に大きく寄与してきました。


私は「安全文化とは何ですか。東京電力には安全マニュアルや安全規則が無いのですか。それとも、東京電力は安全など気にしないという意味ですか」と、よく聞かれます。もちろん、東京電力にはマニュアルも規則もありますし、東京電力が社員の安全を気にかけているのは明らかです。


しかし、私たちの「安全文化」が意味するのは、それ以上のことです。それは、訓練や問いかける姿勢を重視することです。特に重視されるのは組織内のコミュニケーションで、トップダウンだけではなく、より多くのボトムアップもあり、あらゆる従業員間のコミュニケーションもあります。


安全文化を言葉で表現すれば、全作業員が、自らが携わる全てにおいて安全を考えながら取り組むようにする文化、となります。


これまで東京電力が十分な注意を払ってこなかったのは、この種の文化だと思います。そして今、東京電力はそれを築こうとしているのです。


ひとつの例を紹介させてください。2008年、福島第一原子力発電所のエンジニアたちは16メートルの仮想津波という案を提示しましたが、管理部門はその案には信憑性がないと答えました。公正を期すために言えば、当時はどこでもこれと同じだったのです。その結果、緊急時発電機が水浸しにならないようにする予防措置が取られなかったのです。


こうした予防措置が取られていれば、おそらく、発電機を地階から移動するか、ほかの防護ラインと協力して発電機を増やすことによって、歴史は大きく違っていたかもしれません。


さて、ここで質問です。あなたならどこまでやりますか。心配しすぎて起きる可能性のある全ての惨事に備えなければならないとすれば、何も建設できないでしょう。これは原子力発電所だけでなく、飛行機なども同じことです。


また、一般市民は原子力リスクを過剰評価し、化石燃料のリスクを過小評価する傾向にあるという事実も、物事を複雑にしています。


事実、だからこそ「安全文化」の一部である「文化」がとても重要なのです。十分に計画したことをあなたに知らせる正確な尺度というものは存在しません。むしろ、それは全てのリスクを批判的な目で評価するという考え方なのです。あなたは「これが起こるとは思わないが、もし起きたらこうするだろう」と言います。


この文化を根付かせるには、人が鍵となります。訓練された責任感のある人たちで、やる気のある人たちです。批判的に考え、結果だけでなくプロセスにも注目し、予想外のことにも準備できていて、それに対応する能力のある人たちです。技術は確かに重要ですが、よく訓練された人たちほどには重要ではありません。全てのロボットには運転する人が必要です。しかし、全ての弁、全てのポンプ、全てのスイッチには、それぞれがプラントの安全と運転にとって何を意味するかを理解する人たちがいなければなりません。結局のところ、違いを生み出すのは人で、技術は良い仕事ができるよう手助けするだけです。


東京電力は、この文化の創出へと向けて大きな進歩を遂げようとしています。これは一夜にして成るものではなく、旧習慣から抜け出すのは難しいこともあります。しかし、東京電力の幹部はそれを成し遂げることに情熱を傾け、成功することの必要性を理解しています。私は、東京電力の原子力安全改革プランに、管理構造や訓練とコミュニケーションの大幅な改善が組み込まれていることに勇気づけられました。これらの全てで、安全文化の確立に焦点が当てられています。


そして、多くの人が否定的な予想をしたにもかかわらず、4号機からの燃料取り出しが綿密な計画に基づいて成し遂げられました。


事実、4号機からの燃料取り出しは画期的な出来事だと信じています。これは、事故後の実際の核物質の移動における最初の主要なステップであると同時に、安全文化がどの程度まで確立されたかを示すものでもあります。私は、柏崎刈羽原子力発電所で安全文化が定着するだろうと見ています。日本が柏崎刈羽原子力発電所を再稼働すべき適切な時期だと判断し、柏崎刈羽原子力発電所と他の原子力発電所が日本経済に電力を供給するという重要な役割を取り戻すとき、安全文化の浸透を目にするでしょう。


世界は福島を見守っている


元米国原子力規制委員会委員長として、そして今はテキサス・システム大学の副総長として、様々な国を訪問していますが、アメリカであろうと、アジアであろうと、ヨーロッパであろうと、行く先々で、福島のことを尋ねられます。


「福島の人たちはどうしていますか」、「何とかなりそうですか」、「コントロールできていますか」と、人々はとても関心を寄せています。中には優秀な原子力エンジニアもいれば、一般の市民もいます。


そして、私は皆さんにお話ししているのと同じことを彼らに言います。「大きな進歩が成し遂げられようとしています」、「私は未来について楽観的です」、「だけど、これはまっすぐな前進ではなく途中で壁にぶつかることもあります」。


福島第一原子力発電所では、毎日発生する400トンの汚染水をどうするかについて困難な決定を下す必要があり、1号機、2号機、3号機の処理については、より困難な決定を下す必要もあります。今後数十年の間には間違いなく想定外の事態に1度ならず遭遇するでしょう。東京電力は新しいD&D組織を作ることにより、そして安全文化を採用することにより、物事が計画通りに進まなかったときにも効果的に対処できるよう堅牢な組織を作ろうとしているのです。


日本にとっては、クリーンアップが進むにつれて新たな問題が起きることに気づく必要があります。重要なのは、こうした問題に取り組むために技術と安全文化があることです。


先ほど、世界は福島を見守っていると言いましたが、これは本当です。しかし、世界は単に見守っているだけではなく、援助の手も差し伸べています。原子力改革監視委員会における私の活動は、自分のキャリアの中で最もやりがいのある活動だと思っています。私たちはこの活動がどれほど重要か、および日本の人たちにとってどれほどの意味があるかに気付いています。


私たちは歓迎していただいたこと、東京電力で働く人々が真の改革に心を開いていること、そして特に原子力改革監視委員会の日本のメンバーが貢献してくれたことについて、とても満足しています。原子力改革監視委員会は、必ずしも寛大に私たちを評価していませんが、私たちはどうすれば物事を改善できるかについて考え方を提供し続けていく所存です。


今後もできる限りの援助を続けていくつもりです。そして、日本の人たちは資源、技術的な卓越性、成功への決意を持っていると確信しています。


私たちは支援すると同時に学んでもいます。どうすれば原子力発電所を今よりさらに安全にできるかを学んでいます。また、数十年後に古い原子力発電所を閉鎖したり建て替えたりしなければならなくなった際に役立つD&D作業についても、貴重な教訓を得ています。


私たちは、福島が経験したような事故の結果として原子力発電所が廃炉されることを望んではいませんが、福島で得た技術的および工学的な経験は、こうしたプラントの安全な廃炉に今後大きく貢献するでしょう。


事実、皆さんが開発しようとしているD&D能力は、日本の貴重かつ輸出可能な財産になると考えられます。


日本だけでなく世界は、総合的なエネルギーミックスの一部として原子力を必要としています。電力を作るために何トンもの炭素を排出して大気を汚染するとすれば、「エコカー」や「エコトレイン」には何の意味があるでしょう。再生可能エネルギーは重要ですが、日本や他の国々は、ベースロード電源による信頼できる供給を必要としています。ご承知のように、かつて原子力に反対した多くの人たちは現在原子力を支持していますが、その理由は、化石燃料に依存することのリスクの方がはるかに大きいことに気付いたからです。


日本が福島の課題を克服して成功することは、私たち共通の未来における原子力の役割について世界中の人々の信頼を築く上で、重要な役割を果たすでしょう。ですから、私たちは皆さんの成功を応援しているのです。


東京電力の廣瀬社長は数週間前のスピーチの中で、福島事故の3周年は、過去を振り返ると共に、より良い未来を作るために心新たに献身していくことを示すものだと述べていますが、その通りだと思います。


ここで一休みして、地震、津波、福島第一原子力発電所事故が多くの人たちにもたらした苦難と避難の苦しみについて考えてみましょう。ちょうど良い機会ですから、過去3年間のことも考えてみましょう。この3年間は、どのような挫折や妨げがあったにせよ、重要な進歩をもたらしてくれました。


そして、今こそ未来のために献身すべき時です。私は明るい未来を信じています。日本の人たちにエネルギーの安全保障と経済の活力をもたらしてくれる未来です。


私たちが、プロセスや技術にどれほど依存していようとも、こうした目標の達成責任を負うのは人です。東京電力は行く先で壁にぶつかることもあるでしょう。重要なのは東京電力が改革を続けること、現状に満足しないこと、そして福島第一原子力発電所のクリーンアップで進歩を続けることです。そして、この素晴らしい国の人たちがこうしたチャレンジを克服すると確信しています。


彼らはどんなに困難な時でもそうやってきました。そして私は、彼らが多大な努力、チームワーク、および日本を有名にした技術的な卓越性の組み合わせをもって、それをやり続けると信じています。この偉大なる国家的な取り組みに、微力ながらも一役果たすためにお招きいただいたことを、今もこれからも大変光栄に思います。


ありがとうございました。